2013年3月28日木曜日

ECD『The Bridge - 明日に架ける橋』

前々作『TEN YEARS AFTER』でそれまでの過去を振り返り、前作『Don't Worry Be Daddy』では『TEN YEARS AFTER』以降の「今」の生活を切り取ったECD。今作『The Bridge - 明日に架ける橋』は、前作のラスト「Sight Seeing」のアウトロから始まる事に象徴されるように、過去2作の延長線上にある。

前作と今作で決定的に違うのは、東日本大震災、そして、それに起因する東京電力福島第一原発の事故。特に原発事故によって、ECDの生活は大きく変わった。休日はデモで渋谷や原宿を練り歩き、毎週金曜日は官邸前でマイクを握る。非日常的だった出来事が、日常的になってしまった。

今作『The Bridge - 明日に架ける橋』では、こうした前作以降変化してしまった日常がテーマの1つとなっている。現在の仕事がなくなり、原発の廃炉作業員として働く自分を想像する「遠くない未来」、粗悪ビーツの「負けない」をサンプリングし、震災や原発事故以前/以後の変化を綴る「今日昨日」。この2曲に、ECDの政治的姿勢がはっきり現れている。

ただ日常が変化したとはいっても、当然変わらない部分もある。2児の父親としての日々の記録「知らん顔」、一人暮らしの頃を思い出しつつも、夫として、父親としての日々も悪くないと語る「NOT SO BAD」このような生活の断片も、私小説的に語られている。またERAの声をサンプリングし、ヒップホップのトレンドと自分のミスマッチをユーモラスに表現した「憧れのニューエラ」や、ネットを主戦場とした今の日本語ラップシーンについて歌った「ラップ最前線」のような曲も収録されている。

こうした曲群の中でも印象的なのが、アルバムのタイトルトラックである「The Bridge」からラストに収録の「APP」への流れ。「The Bridge」は、ECDILLREMEの先日公開された「反レイシズムRemix」でも使われたメロウなトラックに乗せ、今後の人生への不安や焦燥感に捉われながら、それでも一歩ずつ進んでいくしかないんだという意思を表明している。そこから、過酷な毎日の中、それでも続いていく人生や音楽やパーティーへの祝福である「APP」に繋がり、アルバムは大団円を迎える。

曲によっては内容はかなりヘビーであるにも関わらず、サウンドは前作と比べ高揚感と多幸感に満ち溢れている。イリシット・ツボイの実験的でクレイジーな手腕も冴え渡っており、聞き応えは十分。この力強くフレッシュな音と言葉が、先行きの見えないこの日本という国を生きる我々リスナーに、一縷の希望を与えてくれる。