前々作『TEN YEARS AFTER』でそれまでの過去を振り返り、前作『Don't Worry Be Daddy』では『TEN YEARS AFTER』以降の「今」の生活を切り取ったECD。今作『The Bridge - 明日に架ける橋』は、前作のラスト「Sight Seeing」のアウトロから始まる事に象徴されるように、過去2作の延長線上にある。
前作と今作で決定的に違うのは、東日本大震災、そして、それに起因する東京電力福島第一原発の事故。特に原発事故によって、ECDの生活は大きく変わった。休日はデモで渋谷や原宿を練り歩き、毎週金曜日は官邸前でマイクを握る。非日常的だった出来事が、日常的になってしまった。
今作『The Bridge - 明日に架ける橋』では、こうした前作以降変化してしまった日常がテーマの1つとなっている。現在の仕事がなくなり、原発の廃炉作業員として働く自分を想像する「遠くない未来」、粗悪ビーツの「負けない」をサンプリングし、震災や原発事故以前/以後の変化を綴る「今日昨日」。この2曲に、ECDの政治的姿勢がはっきり現れている。
ただ日常が変化したとはいっても、当然変わらない部分もある。2児の父親としての日々の記録「知らん顔」、一人暮らしの頃を思い出しつつも、夫として、父親としての日々も悪くないと語る「NOT SO BAD」このような生活の断片も、私小説的に語られている。またERAの声をサンプリングし、ヒップホップのトレンドと自分のミスマッチをユーモラスに表現した「憧れのニューエラ」や、ネットを主戦場とした今の日本語ラップシーンについて歌った「ラップ最前線」のような曲も収録されている。
こうした曲群の中でも印象的なのが、アルバムのタイトルトラックである「The Bridge」からラストに収録の「APP」への流れ。「The Bridge」は、ECDILLREMEの先日公開された「反レイシズムRemix」でも使われたメロウなトラックに乗せ、今後の人生への不安や焦燥感に捉われながら、それでも一歩ずつ進んでいくしかないんだという意思を表明している。そこから、過酷な毎日の中、それでも続いていく人生や音楽やパーティーへの祝福である「APP」に繋がり、アルバムは大団円を迎える。
曲によっては内容はかなりヘビーであるにも関わらず、サウンドは前作と比べ高揚感と多幸感に満ち溢れている。イリシット・ツボイの実験的でクレイジーな手腕も冴え渡っており、聞き応えは十分。この力強くフレッシュな音と言葉が、先行きの見えないこの日本という国を生きる我々リスナーに、一縷の希望を与えてくれる。
2013年3月28日木曜日
2013年3月27日水曜日
誰も知らなかったココ・シャネル
ココ・シャネルの生い立ちから戦後まで数々のエピソードを掘り起こし、なぜ彼女が反ユダヤ・反共主義になり、最終的にナチスのスパイになったのかを解き明かしていくノンフィクション。Twitterでかなり前に話題に挙がっていたもののなかなか買えず、最近になってようやく手に入れた。
ココ・シャネルだけでなく、ココ・シャネルのスパイ活動を行う上でのパートナーだったハンス・ギュンター・フォン・ディンクラーゲ男爵(通称シュパッツ)という人物の活動についても、フランス情報部の資料などを元に詳細に書かれている。この2人に関するエピソードを補足するように、当時のヨーロッパの政治状況に関する記述もあるので、予備知識が無くとも読みやすい。また本書はそうした政治的なトピックだけでなく、誉れ高いシャネルの香水「No.5」の開発についての逸話や、シャネルの登場が当時のファッション界に与えた影響など、「シャネル」というブランドの歴史にも大きくページを割いている。
中には、ココ・シャネル自身のパーソナリティについての言及もある。その奔放で強気な性格や、イギリス国王の従兄などを含んだ錚々たる面々が並ぶ男性遍歴。更にそこから派生して、ココ・シャネルを含めた戦前・戦中の富裕層の生活。これらの記述から想像されるのは、『ミッドナイト・イン・パリ』に描かれているような華麗な生活よりも、(国は違うが)『地獄に堕ちた勇者ども』の退廃的なそれに近い。何となくではあるが、当時のヨーロッパの富裕層の生活の一端が窺い知れてなかなか興味深い。
2013年3月22日金曜日
SHAME
アイルランドからNYに移住し、仕事でも有能なブランドン。しかし彼は、仕事場でもポルノ画像を収拾し、自宅では娼婦を呼んでひたすらセックスをするセックス依存症を患っていた。そんなブランドンの元へ、自傷癖があり恋愛依存症でもある妹のシシーが転がり込んでくる。そこから、2人の生活が崩壊していく。
劇中でセックスや自慰のシーンは山程あるものの、そこにエロティシズムはなく、ただただ痛々しさが残るだけ。セックス依存症の現実を痛いほど描写している。監督はあのかの有名な俳優と同じ名前、スティーヴ・マックイーン。この監督にはこれからも注目していきたい。ブランドンを演じたマイケル・ファスベンダーは、台詞は少ないながらもセックス依存症の男を生々しく演じきっていてお見事。シシーを演じたキャリー・マリガンも同じく。
また、監督が映像作家なだけに、映像が全体を通してスタイリッシュなのも良かった。NYの夜の街や、シシーがバーで歌うシーンなど大変美しい。この美しい映像があるからこそ、セックスや自慰のシーンの惨めさがより際立つ。美しい映像と映画が扱っているテーマの惨めさ・エグさの2つの間の落差が、この映画の魅力かもしれない。
2013年3月20日水曜日
ONE-LAW『MISTY』
昨年の『Misty The Sound Crack』に続く、ONE-LAWの実質的な1stアルバム。参加アーティストには、MONJU、BES、Fla$hBackS、K-BOMB、漢、NIPPSなど錚々たるメンツが集合している。マスタリングは『Misty The Sound Crack』に続いてINNERSCIENCEが担当。ちなみにこのアルバムで使用されているトラックの多くは、『Misty The Sound Crack』にも収録されていたもの。
まずは黒いサウンドのイメージがあるMONJUに対して、浮遊感のあるトラックという意外な組み合わせの「Misty」でアルバムは幕を開ける。NORIKIYOとBRON-Kの「Akage No Fantastic」にはメロウなトラックをぶつける。BRON-Kの繊細な歌声とトラックが素晴らしいケミストリーを生み出している。個人的にはこれがベストトラック。「Re:Loaded」のKILLah BEENのタイトなラップには、ストレートなブレイクビーツで真っ向勝負。Mary Janeの歌声が美しい「To You」。ラスト「Kingdom」では、RGFの面々とBESのラップの凄みに圧倒される。全体を通し、ONE-LAWのプロデューサーとしての手腕が如何なく発揮されている。更に、「I'm Fine No Thank-You」でONE-LAW自身もラップを披露。
また、このアルバムには上記の他にBLYY、三島 a.k.a. 潮フェッショナル、メシアTheフライ、KNZZ、B.D.などが参加している。これらのメンツに共通するイメージは、池袋にあるクラブ、bed。池袋ひいては東京のヒップホップの中心であり続けている老舗のクラブで、これまでも日本のヒップホップの発展に一役かってきたbedの周辺にいるラッパー達が大きくフィーチャーされている。ONE-LAWもそうしたbed周辺のシーンの一人で、bedで行われた数々のパーティーに出演している。
このアルバムは、ONE-LAWのトラックメーカー、プロデューサー、ラッパーとしての実力を証明すると同時に、bed周辺のシーンの充実ぶりを日本語ラップリスナーに対して提示している1枚となっている。様々なラッパーをフィーチャーしているという意味では去年のDJ PMXや今年のBCDMGのアルバムと同じだが、特定のシーンをREPしている点がこのアルバムを特別なものにしている。
まずは黒いサウンドのイメージがあるMONJUに対して、浮遊感のあるトラックという意外な組み合わせの「Misty」でアルバムは幕を開ける。NORIKIYOとBRON-Kの「Akage No Fantastic」にはメロウなトラックをぶつける。BRON-Kの繊細な歌声とトラックが素晴らしいケミストリーを生み出している。個人的にはこれがベストトラック。「Re:Loaded」のKILLah BEENのタイトなラップには、ストレートなブレイクビーツで真っ向勝負。Mary Janeの歌声が美しい「To You」。ラスト「Kingdom」では、RGFの面々とBESのラップの凄みに圧倒される。全体を通し、ONE-LAWのプロデューサーとしての手腕が如何なく発揮されている。更に、「I'm Fine No Thank-You」でONE-LAW自身もラップを披露。
また、このアルバムには上記の他にBLYY、三島 a.k.a. 潮フェッショナル、メシアTheフライ、KNZZ、B.D.などが参加している。これらのメンツに共通するイメージは、池袋にあるクラブ、bed。池袋ひいては東京のヒップホップの中心であり続けている老舗のクラブで、これまでも日本のヒップホップの発展に一役かってきたbedの周辺にいるラッパー達が大きくフィーチャーされている。ONE-LAWもそうしたbed周辺のシーンの一人で、bedで行われた数々のパーティーに出演している。
このアルバムは、ONE-LAWのトラックメーカー、プロデューサー、ラッパーとしての実力を証明すると同時に、bed周辺のシーンの充実ぶりを日本語ラップリスナーに対して提示している1枚となっている。様々なラッパーをフィーチャーしているという意味では去年のDJ PMXや今年のBCDMGのアルバムと同じだが、特定のシーンをREPしている点がこのアルバムを特別なものにしている。
2013年3月19日火曜日
A-THUG & DJ SPACEKID『FREEZ CITY』
去年リリースの『HEAT CITY』に続く、DJ SPACEKIDとのMIXシリーズ第2弾。今回は既発曲はなく、全曲新曲or未発表音源。ラップするのは、酒・女・ドラッグ。SCARSの面々の登場以後はありきたりなトピックだけど、A-THUGの言語感覚でラップすると魔法がかかる。「吸い込むkush オサマとブッシュ」「ぶっとんでるし金も持ってる お前が持ってるのはジェラス」などパンチライン連発。「80%」で「8割方」ってワードを連発してるのも面白い。THUGMINATYのT.O.PやSCARSの盟友STICKY、惜しくも今年亡くなったBIG-T、DJ TYKOHなどを客演に迎え、ハスラーとしての日々をスピット。客演の中では、STICKYのリリックの凶暴さが頭一つ抜けてる。個人的なベスト・トラックは「Don't Stop」。DJ TYKOHのシャウトに、A-THUG、SIMON、Y'sのラップが加わってイケイケ。TRAPライクなプロダクションもラップに合ってる。
ラベル:
A-THUG,
DJ SPACEKID,
日本語ラップ
2013年3月18日月曜日
スリー・キングス
湾岸戦争終結直後のイラク。実戦経験が殆どないトロイは、イラク軍の捕虜の尻から地図を発見する。それは、イラクがクウェートから盗んだ金塊の在りかを示した地図だった。トロイの上官であるアーチーはその地図を元にトロイ、チーフ、コンラッドの4人で金塊を探しに行く。金塊は無事見つけたものの、イラク軍による反フセイン派への弾圧を見た4人は、停戦協定を破ってイラク軍と戦闘してしまい・・・。
『世界にひとつのプレイブック』のデヴィッド・O・ラッセルの99年監督作。アーチーを演じたジョージ・クルーニーはこの撮影中に監督を殴ったというほど現場は荒れていたようだが(デヴィッド・O・ラッセルは双極性障害を患っていて、その症状が現場で出てしまったらしい)、そんなハードな現場だったとは思えない快作。10年程前に一度TVで観て面白かった記憶があったが、もう一度観直してもやっぱり面白かった。
妻子あるアメリカの一般市民であるトロイの拷問シーンでは、湾岸戦争におけるアメリカの狙いであった石油をトロイに飲ませ、更にイラク兵が実はアメリカによって養成されたこと明らかにし、アメリカの虚飾を剥がす。このシーンは、この映画の政治的な立場を明確に表している。湾岸戦争から10年弱、911のテロの2年前という微妙な時期だからこそ作れた映画だと思う。今考えると、こんな過激な映画をよくTVで放送できたなと…。また、初めは使い様のない武器と思われていたフットボール爆弾の伏線の回収の仕方が見事で思わずニヤリ。
2013年3月16日土曜日
ジャンゴ 繋がれざる者
奴隷だったジャンゴ(ジェイミー・フォックス)が元歯科医で賞金稼ぎのシュルツ(クリストフ・ヴァルツ)の手を借りながら、農園主で富豪のカルビン(レオナルド・ディカプリオ)から妻・ブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)を取り戻そうとするマカロニ・ウエスタン。タランティーノ、3年ぶりの監督映画。
パンフレットにある町山智浩さんの解説に、この映画は「ブラックスプロイテーション」だと書いてあったが、正にその通り。黒人を差別し、モノとしか見ていない人間は最終的には悲惨に撃ち殺され、カルビンの屋敷はラストに盛大に爆破される。爆破の後でサングラスをしてキメたジャンゴの姿は、ブラックスプロイテーション映画の主人公そのまま。
ジャンゴとシュルツを夜に襲撃しようとするKKKのような集団の不毛で下らない会話のシーンや、ド派手な銃撃シーンなど、タランティーノならではの演出も健在。映画後半にジョニー・トーの『エグザイル/絆』を思わせるような室内での銃撃シーンがあるが、これは一見の価値あり。
役者に関して言えば、アカデミー賞・助演男優賞を受賞したクリストフ・ヴァルツは当然素晴らしかったが、悪辣な農園主を演じたディカプリオも負けず劣らず良かった。個人的にはこちらに賞をあげたい。またサミュエル・L・ジャクソンが農園を仕切る執事・スティーブンを演じていたが、これは反則。誰かが言っていた通り、志村けんのコントに出てくる老人そのまま。喋る度に笑ってしまいそうだった。
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