2013年9月13日金曜日

Rapsody『She Got Game』

リリースは少し前ですが、9th WonderのJamla Records所属、Rapsodyの新作ミクステ。このミクステのDatpiffのコメント欄を見てると、基本的には賞賛の声が殆どですが(「The Best Female Rapper !」や「MIXTAPE OF THE YEAR RIGHT HERE」なんて声も)、中には

「I just don't like female rappers…(オレはフィメール・ラッパーが好きじゃないだけなんだ…)」

「No offense but I don't even like female rappers like that but this girl is dope(悪気は無いがオレもこういうフィメール・ラッパーは好きじゃないんだ、でもこの子はドープだね)」

「I don't mind listening to female music artists. But when it comes to rap I can't relate to these bitches.(女性ミュージシャンを聞くのは気にならないけど、それがラップとなるとオレは我慢ならないんだ)」

みたいなコメントが混じっていて興味深い。Lil KimやMissy Elliott、最近だとNicki Minaj辺りの例外はあるとしても、やはりUSではヒップホップは男の音楽なんだなあと実感します。ギャングスタ・ラップのサグでマッチョな世界観に魅せられた人にとって、フィメール・ラッパーは確かに受け入れづらいものなのかもしれませんね。

メディアも、その辺りについてはやはり言及は避けられないようです。

「In an industry where men are often the dominate figures, female lyricist Rapsody has clearly figured out how to shine through in the rap game.(往々にして男が支配的な世界の中で、Rapsodyはこのラップ・ゲームで輝く術をはっきりと見つけ出した)」XXLのレビューより

「Such talk should end with She Got Game, as Rapsody makes her case as an undeniably talented emcee regardless of her lack of Y-chromosomes.(そのような話は『She Got Game』で終わらせるべきだ、なぜならRapsodyはY染色体の欠如とは関係なく、紛れも無く才能のあるMCであると証明したからだ)」HIPHOP DXのレビューより

※そのような話…「彼女は新進気鋭の女性MCの1人だ」「9th Wonderの指導の下で」といったRapsodyを語る際に言われる枕詞のこと

※Y染色体の欠如…要するに、「女性である」ということ

肝心の内容ですが、2つのレビューの抜粋にもある通り、素晴らしい出来です。これまでミクステ4作、EP1枚、アルバム1枚を発表していますが、今作が最高傑作という声もありますね。師匠の9th Wonder、DJ Premier、Khrysisらの温かみのある渋いビートと、Rapsodyの安定感のある滑らかなフロウが堪りません。Lauryn Hillのファンだそうで、今作の「My Song」は彼女へのトリビュート・ソングだそう。確かに言われてみれば、そんな雰囲気はする。次のアルバム・リリースで、一気にブレイクするかもしれませんね。


2013年9月12日木曜日

SEEDA, DJ ISSO, DJ KENN『Concrete Green The Chicago Alliance (single)』

日本語ラップにハスリング・ラップの流儀を持ち込み、最新のアルバム『23edge』では当時流行のTrill Waveライクなプロダクションに挑戦したりと、世界(というかUS)のラップ・シーンに対する意識が人一倍強かったSEEDA。今回のシングルもChief Keefのミクステ『Bang』のトラックを手がけ、現在もシカゴで活動中のDJ KENNとタッグを組むなど、さすがの嗅覚。ただ、プロダクション以外の部分に目をやると、今作の少し違った側面を見ることが出来る。

1曲目ではいきなり韓国のストリート系ラッパー・DOK 2をフィーチャーし、A-THUG・STICKYと共にSCARSとして参加の2曲目では「Asian Jap」というフレーズを連呼。SEEDAの中で、「日本語ラップ × USラップ」という図式から、「アジアのラップ × USラップ」へと、少なからず変化があったように感じる。ブログに書いているが、その変化は異国の地・シカゴで孤軍奮闘する「侍」DJ KENNに触発されたのかもしれないし、USのシーンに食い込まんばかりの勢いのG-DRAGONに代表されるK-POPだったり、MOMENTのようなラッパーがいる日本語ラップ・シーンに影響を受けた結果なのかもしれない。

しかし、SEEDAのラップ・スキルの進化はとどまることを知らない。DJ KENNのビート上で英語・日本語を自由自在に操り、mikE maTidaとの共作曲ではそれこそシカゴのChief KeefやKing Lばりにオートチューンを使いこなしての歌うようなラップ。この人に限界はないのか。あとSEEDAとは正反対にいつも通りのA-THUG。微妙に乗りこなせてない感じが逆に個性的で面白い。「ケンちゃんNIGHT(LIFE?)」って何だろう…。


2013年9月4日水曜日

Goodie Mob『Age Against The Machine』

Goodie Mobの存在を初めて知ったのは、今はもう廃刊になってしまったsnoozerからディスクガイドが発売された2004年(Outkast『Speakerboxx/The Love Below』関連の作品として、ベスト盤『Dirty South Classics』が載ってた)。ただ本当にGoodie Mobにハマったのはここ1年程の間で、理由はというと、Amazonで『Soul Food』と『Still Standing』の2枚が中古で安く売られてるのを発見・購入したから。正に「Dirty South」と形容すべき泥臭いトラックのドープさと4MCのラップスキルの高さに魅了され、特にCee-Loの化け物のようなラップと歌には腰を抜かした(ソロのアルバムや他のプロジェクトはそれほどでもないのだが)。で、そんなタイミングでのGoddie Mobの「オリジナル・メンバー」での再結成とアルバム発売。

結論からいうと、予想していたほど良くはなかった。XXLマガジンのレビューでは5段階で3の評価の「L」で、選評から抜粋すると

Despite being in different places, the group has decided to reunite for their first proper album in over a decade. And just like Soul Food, Age Against The Machine tries to succeed in being different and innovative. At times, the results are disastrous, but the album always remains interesting.

「異なる立ち位置にも関わらず、グループは正式なアルバムを作成するため10年ぶりに再結成することを決めた。そして『Soul Food』のように、『Age Against The Machine』も個性的・革新的であろうと試みている。時としてその結果は悲惨なものとなっているが、アルバムは常に興味深いものになっている」和訳するとこんな感じでしょうか(拙い英語力ですいません…)。ボクもこの評価にほぼ100%同意です。

まずトラックが『Soul Food』や『Still Standing』の時のような泥臭いものでなく、現行の最新のヒップホップシーンのそれに近いものになっている。ドラムマシンから打ち込まれた金属的なハットの音や、EDMから影響を受けたと思われる電子ノイズ。こうした「今の音」がふんだんに盛り込まれている。事実上の1曲目「State of the Art (Radio Killa)」を聞いて「えっ!?」と思ったのはボクだけではないはず。

またHIPHOPDXの記事によるとより多くの人に届いて欲しいという気持ちもあったようで、かなりポップな曲もアルバムには収録されている。「Valleujah」や「Amy」のフックは、シンガーとしてのCee-Loの才能が存分に発揮されている。ただこれらのポップな曲調は、『Soul Food』や『Still Standing』を期待していたファンからすれば裏切られたと感じるかもしれない。

ただこれらの実験が全て失敗したかと言われれば、そうでもない。PVが発表された「I'm Set」「Special Education」、T.I.が参加した「PinStripes」なんかはなかなかの出来で、これがまたアルバム自体の評価をややこしくしている。

じゃあ昔と全く変わらない音だったら良かったかというと、それはそれでどうなのかという考えが頭をよぎる。ファンが描くGoodie Mob像と、本人達の望むGoodie Mob像と、現行のヒップホップシーンと、それぞれの間の溝。再結成アルバムを『Age Against The Machine』と名づけ、「まだまだオレらは現役だよ」と言いたかったのだろうが、やはり14年という歳月は長かったということか。