2013年2月18日月曜日
Raining Stones
巨匠ケン・ローチによる、93年の作品。93年といえば、サッチャーによる弱者切り捨ての影響が色濃い時代。オアシスが出てきたバックグラウンドは、正にこうした状況。タイトルの「レイニング・ストーンズ」とは、マンチェスター地方の俗語で「石が降ってくるように辛い生活」という意味らしい。
今作の主人公ボブは失業中、正に「レイニング・ストーンズ」な生活を送っている。しかし敬虔なカトリックであるボブは、娘コリーンの聖餐式用のドレスは新しく立派なものにこだわる。法に触れる仕事を含め様々な仕事をするものの、元々が底辺の生活、金は貯まらない。最終的に、たかがドレスのため(しかしボブにとってはそれが大事)借金に手を出してしまう。当然のことながら返済は滞り、取立人が家に乗り込んでくる。家族を脅されたボブは怒り、取立人と格闘、結果として取立人は死んでしまう。ボブは罪を悔い、神父の家で罪を告白、警察署に出頭すると言う。しかしそれに対して、神父の答えは「ノー」。警察署には行かず、そのままにしておくことを勧める。そして借金の借用書を燃やしてしまう。
ボブのカトリックの教えに沿った行動を、神父が否定するという矛盾。信仰に沿って地獄のような生活に堕ちるか、法や信仰に背いてでも幸せに生きるのか。生きていくためにはボブは優しすぎ、信仰など邪魔なだけなのだろうか。聖餐式の途中、走っていくパトカーが気になって仕方ないボブ。おそらく一生罪を悔いながら生きていくのだろう。
貧しく厳しい生活を描写する中でも、ユーモアや主人公達への暖かい視線が含まれているがケン・ローチらしく微笑ましい。この前作である『リフ・ラフ』に続いて、80年代~90年代のイギリスの貧困層を秀逸に描いた傑作。