ここ数年のZAZEN BOYSの活動は、熱狂的なファンから見ても「行き詰まり」を感じさせるものだったように思う。「行き詰まり」の理由としては、変拍子を多用した複雑なバンドアンサンブルからグル―ヴを生み出すという基本的な方向性が、マンネリに陥っていた事。そしてそのマンネリを打破しようと大胆にハウスを取り入れた『Ⅳ』の曲群も、何かバンドとして腹が決まっていないかのような、中途半端なものだった事。
今作『すとーりーず』は、そうした停滞感へのバンドからの明確な回答になっている。「HIMITSU GIRL~」「RIFFMAN」に代表されるゴツゴツしたリフからなる岩のような音塊は、「Honnoji」「Weekend」を経由してカッティングが冴え渡る「サイボーグのオバケ」「泥沼」のような、よりシャープでソリッドな形に。粘っこいグル―ヴの「ポテトサラダ」「気がつけばミッドナイト」も素晴らしい。何かバンドの目指す所が、結成当初から影響を公言していたレッド・ツェッペリンから、P-FUNKや向井秀徳のルーツの1つであるプリンスのようなファンクへと変化したような印象。また『Ⅳ』から新たに取り入れたハウスの要素は、バンドサウンドを適度にミックスさせた「すとーりーず」へ。ハウスの音を吸収し、ZAZENの世界へと昇華させている。
加えてニューウェイブを思わせる「はあとぶれいく」「破裂音の朝」では、NUMBER GIRL時代のようなポップなメロディを解禁。ZAZENではおそらく意図的に封印されてきたけれど、向井秀徳は本当にいい曲を書く。舵を切り直し、バランスを整え、過去の呪縛からも解放されたアルバムは、ギターリフとシンセが絡まる中で向井節がこだまする「天狗」で大団円。バンドのやり切ったという感触を感じる、問答無用の最高傑作。